最終日。観光地はもうこりごりだし、行先に困っていたのでGoogleマップを眺めて探した。その時、海沿いにあるバセコ地区という場所が目に入ったので検索してみた。すると、その地区もトンドと同じく巨大なスラム街で有名だった。また、この地域はなぜかイスラム教徒が多く住む場所ということもあり、急に興味が湧いたので早速行ってみることに。いつものようにGrabでタクシーを呼び、「バセコ」と伝え、出発。
また海岸通りを通っていく。この日はなぜか渋滞していた。
走ること30分、みすぼらしい建築群が見えてきた。どうやらすでにバセコに着いたらしいが運転手はさらに奥に行こうとする。ガタガタの未整備の道路を走ると海が見えてくるがその先が地獄だった。
車が半分つかるぐらいの水溜りができていた。標高がかなり低いから高波が来た時に大量の水が浸入したのだろう。しかも水を吸収しないコンクリートの道路なので当然入った海水は溜まったまま。台風の時なんかどうなるかは想像に難くない。
さすがに引き返すだろうと思ったが、運転手はそのままタクシー車を水溜りに突っ込んで走ろうとしたではないか。車が心配だったのでこれには私も「もういいもういい!引き返して!」と言い、運転手はUターンして元の場所に戻ってくれた。入り口あたりで降ろしてもらい、バセコ周辺の散策を開始した。この日の暑さと湿度は異常だった。
タクシーを降りた場所。見ての通り、スラム街なのだがトンドと違って整備されている道路が多い気がする。
と思ったがそうでもなかった。利用者が多いのか、大量のトライシクルが停車していた。
さらに奥に進むと、水はけの悪い道路が目立ち始める。そしてここの住民も子供や若者の比率が高い。あと空き地や破壊したままの建物も少なくない。売店らしき建物もあるがほとんどのお店は重厚な鉄格子に守られていた。治安が悪いのが見て取れる(そもそも治安の良いスラム街なんてあるのか….)。それでも子供の体を洗う母親がいたり、のんびりくつろいだりと我々と変わらない日常生活を送っていた。
あととにかく野犬が多い。その数の多さはトンドと引けを取らない。場所を問わずうろうろしており、背骨が浮き出たいかにも栄養不足な犬もいれば皮膚に炎症を起こした犬もいた。写真は撮っていないが(あまり頻繁にカメラを出すのは危険というのはあるが)、そのうちの一匹はわずかだが口から涎が垂れていた。言うまでもないが、涎を垂らしている犬は狂犬病の可能性が非常に高い。そのため、恐怖を感じた私はその場からすぐに離れた。幸いその犬は大人しかったので難を逃れたが、もし凶暴性を併せ持っていたらと考えるとゾッとする。
引き返している道中に発見したインターネット屋さん。ここだけでなく他にも同様のお店が存在している。そのうちの一軒のおばちゃんが私を見て挨拶をしてくれた。
タクシーを降りた場所に戻る。近くに学校があったためか、下校している制服姿の子供たちを多く見かけた。そこまではなんとも思っていなかったが、一番驚いたのは制服姿の学校帰りの子供たちがバラック小屋に帰っていく姿が多かったこと。「スラムに住む子たちは学校に行けない」、という先入観が崩れた瞬間だった。確かに家庭を支えるために働かざる得ない子供が多いのは事実だが、実際は学校に通えている子供もいるのだ。いかに自分が色眼鏡でスラムを見ていたかが露呈されたようで非常に恥ずかしくなった。実際に自分の目で確かめるという重要性を改めて認識出来た。
周辺を散策しているとある男性の集団に「ハーイ!見かけない顔だな!どこから来たんだ!」話しかけられた。「日本だ」と回答したら「日本か!よく来てくれたね。せっかくだからゆっくりしてってよ」と言ってくれたのでしばらく彼らの話に付き合うことに。彼らがいた場所も実はインターネット屋だった。そこには彼らの親戚と思われるおばさんや少女もいた。そのうちの一人(以下アルシャヘド)がバイクでバセコを案内してくれるということなのでツーリングをすることに。
今回乗せてもらったバイク。旅先でツーリングしたのはイラン以来だ。
後気になったのが、彼らのほとんどは口の中をもごもごし、赤い唾をペッと吐き出していた。あれ、これなんか見覚えがあるなあ…あっ、ミャンマーでよく見かけた噛みタバコのキンマじゃないか!噛んだら唾が赤くなるやつ!
材料と作り方を見たいとお願いしたら「いいよ!」と言い、見せてくれた。石灰(オレンジのクリームのようなもの)を葉(これをキンマというらしい)に塗り、すり潰したビンロウ(緑色の実のこと)をキンマで包んだら完成。そしてそれを口入れて噛んで楽しむ。ちなみに赤い唾を吐きだすのはその成分が胃腸を悪くするためだそう。アルシャヘドが「お前もどうだ!」と勧められたがそもそも私はタバコ類の嗜好品はやらないので断った。
作っているところ。写真下手くそか。アルシャヘド含む人たちはずっとこれを噛んでは赤い唾をペッペッしていた。そのため、ネット屋の入り口の下は彼らの赤い唾まみれというぱっと見地獄のような光景になっていた。見栄えは最悪と言っていい嗜好品だと思う。
アルシャヘドの後ろに乗り、早速バセコ地区のツーリングを開始。安全運転だったが程よく風を切って気持よかった。アルシャヘドはこの時もキンマを噛んでペッペッしていたのでその度に唾が靴に落ちないかハラハラしていた。運転時ぐらい我慢できないのか。
彼は「海が見たいか」と聞き、頷いたので連れてってくれたが先ほどの水溜りの場所だった。そしてタクシーの運転手と同様にアルシャヘドもバイクを突っ込み、水溜りの中を爆走していく。その度に水が大量にはじく。最初は心配だったが、そのバシャーンと飛び込んでいく様が段々と楽しくなってきた。
海岸沿いも水溜りゾーンばかりではなかった。
漁業用なのか小さな船が置きっぱなしになっていた。その隣にはお約束のゴミが積まれている。
ここ海岸沿いにもバラック小屋が並んでいた。左の方には選挙ポスターと思われるものが張られていたが、彼らがこの貧困問題を真摯に受け止め、解決に尽力してくれることを願うばかりだ。下には、痩せこけた犬がバケツに溜まった泥水を飲んでいる。ちなみにここバセコのスラムもトンドと同様、生活のために地方からマニラに移住をした人たちが小屋を建てて住み着いた結果である。彼らのほとんどは日雇いの仕事とゴミ拾い(その中には子供も多くいる)で稼いで生活をしている。今回は足を運ばなかったが、この近くにあるバセコ・ビーチでは大量のゴミがあるらしい。そこに大勢のスカベンジャーが生活のためにゴミを漁って金銭に変えているらしいが、Googleマップで写真を見ると最近はボランティアの清掃員のおかげでかなり綺麗になってる模様。
海水浴としても楽しめるので興味がある人は是非(現在は新型コロナウイルスの影響で閉鎖中)。
この奥に見えるのもスラム街である。マニラでのスラム街の規模の大きさを改めて目の当たりにした。
海汚っ!そして黒っ!まあ、おそらくこの浮いているゴミも水上スラムから流れてきたものだし、海や川を生活排水にし、さらに汚物を流している可能性も高いのでこの汚さも当然だろう。
トンドやバセコに向かう道中でやたらと目立つ水色の教会がくっきりと見える。
それにしても汚い….
それでもやっぱり海は見るだけで浄化されるなあ。バセコ・ビーチに行かなかったことを激しく後悔する。海を見終わった後、次の場所に移動する。
アイスケースがあるので売店だと思われる。やっているのかすら怪しい。
子供が大好きなお菓子屋さん。ここバセコは小売店が多め。
目の前を走るトライシクルの運転手はなんと子供。生活のために働かざる得ない子供が多いのだろう。
鉄格子で固めすぎて営業しているのかすら分からないエヴァ・プリンセスストア。
バイクを走らせ続けているアルシャヘドが「市場があるよ!見に行こう!」と言い、停車して見学をすることに。バセコ・パブリック・マーケットだ。
一見よく見る普通の市場の様子だが、品揃えがあまりにも貧相な印象だった。
商品はほとんどなく、売り子もいないゾーンもあった。市場としてどうなの….
求人と思われる看板。「GIRL/BOY」と特定している点からしてこの貧困地区ならではの闇を感じる。
ココナッツが売られていた。その他にも野菜やフルーツもあった。
お肉も販売したが、それにしても高温多湿の中での生肉の常温販売とはねえ…当たり前だが食中毒のリスクが高いので買うのは絶対にやめとけ。
市場を抜け出し、再度バイクを走らせる。その中で見かけたガラクタ売りのおじいさん。子供が群がっていた。モバイルバッテリーや充電器、マウス、ラジカセなどの家電製品が売られていたがそのほとんどはジャンク品だと思われる。
ジャガイモのような芋が量り売りされている。
ここにもバスケットゴールが設置され、少年らが楽しんでいた。バスケはフィリピン人の国民的スポーツであることが分かる。
バロック小屋が多いスラム街だが、中には写真のようなコンクリートの綺麗な家も少なくない。
奥に見えるのはモスク。マニラには約10万人ほどのムスリムが住み、各地で分散しているらしいがここバセコもその一つ。ミンダナオ島(フィリピンのムスリムの多くが居住している)にいたムスリムがマニラに移住した結果だ。ちなみにアルシャヘドもムスリムらしい。「アルシャヘド」という名前からしてそんな気はしたが…
洗濯物の干し方がかなりユニークだなあ。家が狭いためなのか、道路のど真ん中に堂々と吊るして干すという発想はなかなか強い。邪魔じゃないのだろうか….
なぜか上にためているゴミ。何のため?
ツーリングもそろそろ終わりそうである。アルシャヘドは「戻ったら俺の親戚と一緒に話しよーぜ」と言ってくれたのでしばらく付き合うことにした。
今回はここまで。後半ではアルシャヘドと親戚たちと絡んだ時の話と、帰国するまでについて書いていく。
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